2009年以来、3年ぶり6度目となるパ・リーグ制覇を果たした北海道日本ハムファイターズ。
2009年の優勝から3年、今年のチームはどのように変貌したのか?本コラムでは、2009年優勝時のチームと今年のチームを守備面、攻撃面、采配面などから徹底比較します。
2012年シーズンは、ファイターズにとって転機の1年であった。プロでの指導者経験のない栗山英樹氏が監督へと就任し、球界を代表する絶対的エース・ダルビッシュ有がメジャーリーグへと移籍。昨季はダルビッシュを擁してリーグ2位――。普通に考えれば、Aクラスに入れれば上々の評価が得られるような、いわゆる“種まきの時期”と考えられるような年である。
前回優勝の2009年は、前任の梨田昌孝監督2年目のシーズン。前年には、いまではチームに欠かせぬ存在となった糸井嘉男を辛抱強く使い、また投手陣では中継ぎでの登板も多かった武田勝を先発専任に抜擢。レギュラーシーズンこそ首位と4ゲーム差の3位という順位で終えるも、確かな“仕込み”をしたシーズンであった。翌年、糸井は自身初の3割を達成し、球界屈指の外野手へと成長。武田勝は自身初の2ケタ勝利を挙げ、優勝の原動力となった。武田勝はそこから今季まで、毎年2ケタ勝利を記録するローテーションの一角として活躍を続けている。前回優勝時は見事、そういった仕込みが実った年であった。
糸井の抜擢
2006年に野手転向し、野手転向2年目となる前年には一軍で7試合の出場に留まっていた糸井を開幕からスタメンに抜擢。63試合に出場させ、飛躍のキッカケを作った。
年度 | 試合 | 打率 | 本塁打 | 打点 | 盗塁 |
---|---|---|---|---|---|
2008 | 63 | .239 | 5 | 21 | 13 |
2009 | 131 | .306 | 15 | 58 | 24 |
武田勝の先発専任起用
2007年6月まで救援登板の多かった武田勝を先発ローテーションの一角として固定。同年は勝ち星が8勝にとどまったが翌年、2ケタ勝利を達成した。※08年も一度のみ救援あり
年度 | 試合 | 回 | 勝 | 負 | 防御率 |
---|---|---|---|---|---|
2008 | 20 | 121 2/3 | 8 | 7 | 2.96 |
2009 | 24 | 144 1/3 | 10 | 9 | 3.55 |
さて、今季はどうだろうか。結論から言えば、栗山監督が抜擢した選手たちが“おそらく”期待以上の活躍を見せたと言えよう。
昨季途中にも4番に据えられながら、結果としては下位打線に“降格”した中田翔を開幕から4番に固定。また、過去3年連続で勝ち星のなかった6年目左腕・吉川光夫を開幕3戦目で先発に指名し、ローテーションへと固定した。
中田は、春先これ以上にないほどの絶不調であり、6月下旬まで打率1割台と苦しみ続けたが、栗山監督は打順をいじることをしなかった。まさに執念とも言える采配だった。
シーズンを終え、最後まで4番の座を中田が守り抜いたこととなるが、ファイターズにおいて、シーズンを通してひとりの選手が4番打者であり続けたというのは、前任の梨田体制、さらにその前のトレイ・ヒルマン氏が指揮官だった時代にもなかったことである。過去3度の優勝時において存在しなかった絶対的4番打者を、今季の優勝チームは擁していたのだ。
一方、吉川がこのまま最優秀防御率のタイトルを獲得すれば、チームでは一昨年のダルビッシュ以来の快挙となる。前年未勝利の投手が同タイトルを獲得するのは、2000年のオリックス・ブルーウェーブ・戎信行投手以来である。近年は高レベルな投手陣が集まるとされるパ・リーグでは、快挙という言葉では表せないほどの、歴史的『偉業』である。
年度 | 主な起用打者 | 当時の背景 |
---|---|---|
2008 | スレッジ、稲葉篤紀、高橋信二、小谷野栄一 | 前年の4番・セギノールが移籍。開幕はスレッジに託すも、一年を通じて固定される事はなかった。 |
2009 | スレッジ、高橋信二、小谷野栄一、ボッツ | 中盤から高橋が固定され、“つなぎの4番”として優勝したチームの象徴となった。 |
2010 | 高橋信二、小谷野栄一、二岡智宏 | 前年の流れから高橋が起用されるも成績が振るわず。6月以降は小谷野に固定され、勝負強さを発揮した。 |
2011 | 小谷野栄一、中田翔 | 開幕から小谷野が座るも、故障もあり中田が抜擢された。その後は一時中田に固定されるも、最後は小谷野に。 |
2012 | 中田翔 | 春先絶不調に陥りながらも中田で固定。自身初の20本塁打に到達するなど、成長を見せた。 |
結果を残すことで評価される世界において、“我慢”して使い続けることは容易ではない。将来性と期待値から、おそらくは将来を見越しての起用だったはずだ。前述において、栗山監督の期待を上回る活躍を“おそらく”としたのは、そういう背景からだ。“仕込み”も含んだ上での抜擢だったはずである。もしそうではなく、シーズンを終えて中田がリーグ2位の本塁打数を放ち、吉川が最優秀防御率に輝く活躍を見せると想定していたのであれば、栗山監督の“目”こそ、今季優勝を成し遂げた肝であり、最大の立役者だ。
その他でも、これまでも申し分のない守備力を擁していた糸井嘉男と陽岱鋼のポジションを入れ替えるコンバートを敢行し、それぞれが昨季を超える成績をマーク。さらに細かい部分では、キャプテン・田中賢介が離脱した直後のゲームで今年20歳になったばかりの高卒2年目・西川遥輝を3番に抜擢し、結果として西川がタイムリーを放ち、チームは勝利するなど、随所に栗山采配が当たっていた。振り返ってみれば、開幕投手起用に賛否両論渦巻いていた斎藤佑樹がプロ初の完投勝利を飾った開幕戦は、今季の“栗山マジック”の始まりであったのかもしれない。
“混パ”を制し、優勝を成し遂げたファイターズは、前回優勝時とは違う魅力と、可能性と、“マジック”に満ち溢れていた。次なる舞台、クライマックスシリーズにおいて、栗山監督がどんな采配を振るうのか、楽しみでならない。
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